■狼信仰
 日本全国には狼(山犬)を祀った数多くの神社や寺、他があります。当サイトで既に掲載した総数は北は東北から、南は九州まで170ヶ所を超えています。また、当方で調査し把握した未掲載の数は80ヶ所にのぼります。このように日本には狼(山犬)の信仰が色濃く存在しますが、今はあまり広く知られていません。  

 狼は山の神のお使い「眷属(けんぞく)」として、田畑を荒らす害獣を駆逐する役回りがあります。また、狼自身が大口真神として神格を持つ場合もあり、害獣を退けることから、悪しきものを噛み砕く神、魔伏せの神として崇められ、山の神が火伏せや多産、豊穣の神であることから狼もまた火防や安産、五穀の神として信仰をあつめることもあります。

 ここ秩父(甲州)往還沿いの山間部には、山犬、狼が持つ類いまれな能力に畏怖と畏敬の念を抱き、お犬様を神様として、また神様のお使いとして、その強いお力にすがり、ご神徳を求め、信心されているお社がたくさんあります。
■「お炊き上げ」神事とは
 神の意を知らせる兆しとして現れたお犬様(狼)が、その霊力を遺憾なく発揮していただくために、毎月の又は特定期間の特定日に「お犬様の扶持」、「お犬様のエサ」、「お炊き上げ」と呼び習わして、赤飯、小豆飯或いは白米を生饌のままや熟饌に調理し供える神事のことです。



釜山神社(寄居町)
寄居町風布の釜山神社では、毎月17日が奥宮「お炊き上げ」で「月々の御眷属様のエサ」といい、饌米を持って奥宮に登り、「お炊き上げ祭」をして饌米を供えている。
城峯神社(神泉村)
神泉村矢納の城峯神社では昭和40年代まで毎月1日と15日に「お炊き上げ」が行われていた。本殿右手にある石組みの処が「献饌場所」になっており、お饌米は黒塗りの会席膳に盛られ、息が掛かると「お犬様が嫌って食べない」ので、膳部から口を逸らせて捧持する仕来たりであったと伝えている。
宝登山神社(長瀞町)
長瀞町長瀞の宝登山神社では「お炊き上げ」と称し、毎月7日の早朝に始まる。前日参籠潔斎した神職は、本殿前庭に竈を据え、信者らが奉納する初穂米を釜に調え、修祓の後、神前にて浄火を起こし、竈に火を移し、1升ほどの米を炊き上げる。炊き上がった米は、神酒その他の御饌に先立ち神前に奉献される。本殿の儀が終わり、奉仕した神職と参列した信者らは炊き上げた御飯を直会として戴く。その後、奥社派遣の神職は炊き上げた白米とほか神饌を調え、奥社に赴き神事を進め、撤饌の後、これを奥宮社殿右後方の岩上に供え「ご眷属の扶持」とする。
岩根神社(長瀞町)
長瀞町井戸の岩根神社の「お炊き上げ」は、境内の「献饌所」と呼ばれる特別の処に、毎月17日、赤飯を供えている。
龍頭神社(小鹿野町)
龍頭神社<奥宮>

小鹿野町河原沢の龍頭神社では祀職高野家の行事として1月1日から3日までと、同月の7日、14日、15日、12月31日に行われ、奥宮からの流水で白米を研ぎ、炊き上げ、神前に供えるが、この間、人に会わない様にひっそりと行う事が重要とされている。「お炊き上げ」の飯を分けて戴くと虚弱の者や病人は丈夫になるといわれている。
両神神社(両神村)
両神神社<本社>

両神村薄の両神神社では、毎月1日お仮屋にお洗米に御神酒を掛けてお供えする事を、「お炊き上げ」と称している。
猪狩神社(荒川村)
荒川村贄川の猪狩神社では「お炊き上げ」とはいわないが、奥宮祭の時11月18日(古くは旧暦9月18日)、奥宮に赤飯の中に栗、粟、黍の新穀を混ぜたものを供え、東南の村のほうを向き、雄叫びを三声発する。
若御子神社(荒川村)
荒川村上田野の若御子神社では、鍵番が毎月13日に赤飯五合を作り、これを取り分けて神前に供え、残りをお下がりとして戴く「お炊き上げ」がある。
三峯神社(大滝村)
大滝村三峰の三峯神社では「お炊き上げ」と称し、毎月10日夕刻に「近宮」で、この宮は三峯神社の神域の御眷属様を祀り、19日夕刻が「遠宮」で、この宮は諸国に貸し出されている御眷属様を祀るといわれ、小豆飯を炊いて供えている。
 秩父地方の多くの神社のお犬様は、神の眷属というよりも、神そのものとされ、そこで「大口真神」(おおくちのまかみ)と神号で呼ばれ、山犬=オオカミ、即ち大神として猪、鹿に代表される害獣除け、火防盗難除け、魔障盗賊避け、火防盗賊除け、憑物除けや憑物落しに霊験があるといわれています。そこで「お炊き上げ」神事が行なわれたり、信者はお犬様の神札やお姿を受け、神棚や専用の祠に祀っています。